【行動経済学】積立の継続は「奇跡」である。暴落やスケベ心より恐ろしい、物理的な「強制終了」フラグ

「暴落が来ても、絶対に売らないぞ!」 「怪しい儲け話には乗らないぞ!」

そう固く決意しているあなた。素晴らしいメンタルです。 しかし、積立投資がストップする原因は、あなたの心(メンタル)の問題だけではありません。

もっと恐ろしい、**「意思とは無関係な、物理的な強制終了」**のリスクがあります。

行動経済学には**「楽観性バイアス」**という言葉があります。私たちは、「今の健康や収入が、15年間ずっと続く」と無意識に思い込んでいます。 今回は、暴落には勝てても「人生(ライフイベント)」に負けて積立を止めてしまう、残酷な現実とその回避策について解説します。


目次

吹き出し(会話パート)

夫(自信満々): 「よし、俺は決めたぞ! どんな暴落が来ても売らないし、個別株みたいな『スケベ心』も封印する。 このオルカン積立を20年続ける『鉄の意志』を固めたんだ。これで老後も教育費も安泰だ!」

妻(冷ややかな目): 「へぇ、メンタルは強くなったのね。 でも、**『お金そのもの』**がなくなったらどうするの?」

夫(キョトン): 「え? 給料から天引きしてるんだから、なくなるわけないじゃん。」

妻(ため息): 「あのね…、あなたの会社、業績が悪化してきているよね?それに、もし私が体調を崩して働けなくなったら? その時、口座に残高がなかったら、あなたのその『鉄の意志』とやらで、どうやって積立代金を払うつもり?」


1. 最大の敵は「暴落」でも「スケベ心」でもない

投資の失敗には、大きく分けて2つのパターンがあります。

  1. 自滅(メンタル敗北): お金はあるのに、暴落の恐怖や、もっと儲けたいという「スケベ心」で、自分からルールを破ってしまうこと。 → これは、勉強と規律で防げます。
  2. 強制退場(フィジカル敗北): 続けたい意志はあるのに、生活費やライフイベントの出費で物理的にお金が尽き、やめざるを得なくなること。今回のテーマはこれです。

実は、長期投資において本当に怖いのは後者です。 前者は「我慢」で解決できますが、後者は「ない袖は振れない」からです。

どんなに素晴らしい投資哲学を持っていても、目の前の住宅ローンの頭金や、家族の手術費が払えなければ、泣く泣く積み立てたNISAを切り崩す(解約する)しかありません。 これが、投資における**「強制終了(ゲームオーバー)」**です。


2. 積立の継続が「奇跡」である理由

なぜ、多くの人が「自分は大丈夫」と思ってしまうのでしょうか。 それは、私たちが「人生は計画通りに進む」と信じすぎているからです。しかし、現実はもっと過酷です。

人生には、予測不能なアクシデントが必ず起こります。

10年20年の間には、大病をしたり、身近な人の死に遭遇したり、職を変わったり、事業を起こして失敗したり、まあいろいろなことが出てきます。大金が急にいる時も出てくるでしょう。

その時でも、「感情を排して、積立を続ける」という行動を取り続けられるか? これは、はっきり言って100人に1人も実行できないのではないか、と思えるほど難しいことです。

これが、長期投資のリアルです。 「暴落に耐える」ことよりも、「日常の荒波の中で、毎月の入金を絶やさない」ことの方が、はるかに難易度が高いのです。


3. 綺麗な「キャッシュフロー表」はファンタジー

よくFP(ファイナンシャルプランナー)に相談すると、綺麗な右肩上がりの「ライフプラン・シミュレーション(キャッシュフロー表)」を作ってくれます。

  • 「年収は毎年2%上昇」
  • 「支出はインフレ率に合わせて推移」
  • 「60歳で退職金が2,000万円」

一見、安心できるように見えます。しかし、ハッキリ言います。 あんなものは、現実にはほとんど役に立ちません(参考にはなりますが)。

なぜなら、あの表は「人生に何も起こらない(凪の状態)」を前提とした、実験室の中のデータに過ぎないからです。 実際の人生は、シミュレーションの「想定外」の連続です。

  • 親の介護が想定より10年早く始まった
  • 子供が「医学部に行きたい」と言い出した(あるいは留学したい、浪人した)
  • 会社が合併して給料体系が激変した
  • 自分がメンタルを病んで休職した

これらは、Excelの表には出てきません。しかし、現実には誰にでも当たり前のように起こります。 「シミュレーションで足りているから大丈夫」と過信して、ギリギリまで投資に回すのは、地図だけ見て「この山ならサンダルで登れる」と言っているようなものです。


4. 脳は「今の余裕」が永遠だと錯覚する

さらに厄介なのが、人間の脳に備わった**「楽観性バイアス(Optimism Bias)」**です。

特にお子さんが0歳〜2歳の時期は、人生における数少ない**「貯めどき」**です。 支出が少なく、共働きもしやすいこの時期のキャッシュフローを基準にして、 「よし、いける!月10万円フルベットだ!」 と、将来の負荷を無視した計画を立ててしまいがちです。

しかし、前述の通り、ここから人生の難易度は「想定外」の連続で急激に上がります。 その時、カツカツの投資計画は一瞬で破綻します。


まとめ:最強の生存戦略は「軌道修正」

「暴落」や「スケベ心」というメンタルの敵と戦いながら、同時にこの「物理的な敵(人生の想定外)」にも勝つためには、どうすればいいのでしょうか?

答えは、防御としての「現金」を持つこと。そして何より重要なのが、**「定期的な軌道修正」**を行うことです。

多くの人は、「一度NISAの設定をしたら、あとは20年間ほったらかしでOK」と教わります。 しかし、それはあくまで「運用商品」の話です。「人生の計画(ライフプラン)」をほったらかしにしてはいけません。

  • 子供が私立に行きたいと言った時
  • 2人目が生まれた時
  • 住宅ローンの金利が上がった時

こうした変化が起きたタイミング、あるいは**「年に1回」**で構いません。夫婦でライフプランを見直し、積立額を調整したり、家計のバランスを整えたりする時間を作ってください。

「3年前に作った完璧なシミュレーション」よりも、「今の現実に合わせた泥臭い修正」の方が、100倍価値があります。

人生は予測不能です。だからこそ、地図(計画)に固執せず、荒波に合わせて舵を切れる柔軟性を持つこと。 これこそが、積立投資という長い航海を「強制終了」させずにゴールへ辿り着くための、唯一の生存戦略なのです。

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