【理論】「現金=安全」は昭和の幻想。FPが教える現代ポートフォリオ理論と「期待値」の正体

「投資は怖い。元本割れしたらどうするんだ」 「現金で持っておくのが一番安全だ」

前回のカテゴリーで、理系進学には「2,400万円」が必要だとお伝えしました。この数字を前にしてもなお、多くの日本人は「貯金(現金)」だけでこの山を登ろうとします。

しかし、FPの視点から言えば、18年という長期戦において「現金のみ」で戦うことこそが、最も勝率の低いギャンブルです。

今回は、ノーベル経済学賞を受賞した「現代ポートフォリオ理論」のエッセンスを借りて、**「なぜ投資をしないと損をするのか(期待値の話)」**を論理的に解説します。 感情論は抜きです。数学の話をしましょう。


目次

1. 「現金=安全」が成立しない理由

まず、「現金は減らないから安全」という思い込みを捨ててください。 通帳の額面の数字(100万円)は変わりませんが、その**「価値」**は確実に目減りします。

インフレという「確実なマイナス」

資本主義社会において、モノの値段は少しずつ上がっていく(インフレ)のが正常な状態です。 特に「教育費(学費)」の上昇率は、一般的な物価上昇よりも激しい傾向にあります。

もし、学費が年2%上昇し続けたらどうなるか? 今、金庫に入れている「100万円」は、18年後には実質**「約70万円」の価値しか持たなくなります。 つまり、現金でタンス預金をすることは、「毎年2%ずつ確実にお金を捨てている」**のと同じことなのです。

  • 投資のリスク: 増えるかもしれないし、減るかもしれない。
  • 現金のリスク: **「確実に」**価値が減っていく。

どちらが本当の「リスク」でしょうか?


2. 現代ポートフォリオ理論が教える「リスク」の正体

投資の世界で言う「リスク」とは、「危険(Danger)」のことではありません。 **「振れ幅(Volatility)」**のことです。

大きく増える可能性もあれば、大きく減る可能性もある。この「振れ幅」のことをリスクと呼びます。 そして、現代ポートフォリオ理論(MPT)の大原則はこれです。

「リターン(利益)は、取ったリスク(振れ幅)への対価(プレミアム)である」

リスクプレミアム(Risk Premium)

銀行預金のリターンがほぼ0%なのはなぜか? それは「振れ幅(リスク)」がほぼゼロだからです。 株式投資のリターンが平均5〜7%あるのはなぜか? それは「暴落するかもしれない」という恐怖(リスク)を引き受けたことへの**「ご褒美(プレミアム)」**だからです。

2,400万円という高い山を登るためには、この**「リスクプレミアム(ご褒美)」**を味方につける以外に、物理的に道がありません。


3. 「期待値」で勝負する

ここで、数学的な**「期待値」**の話をします。 サイコロを振って出た目の平均値のようなものです。

18年という長期スパンで見た時、それぞれの「期待値」はどうなるでしょうか。

  • ① 現金(日本円):
    • 期待リターン:マイナス(インフレ負け)
    • 勝率:ほぼ0%(購買力は確実に下がる)
  • ② 全世界株式(オルカン):
    • 期待リターン:プラス 4%〜7%(過去実績ベース)
    • 勝率:高い(過去200年、15年以上保有してマイナスになった歴史はほぼない)

「期待値プラス」のゲームに参加し続ける

短期的(1年や2年)では、株価は乱高下します。運悪く暴落し、マイナスになることもあるでしょう。 しかし、15年、18年と試行回数(期間)を増やせば増やすほど、結果は「期待値」に収束していきます。

カジノや宝くじは「胴元が儲かる(参加者の期待値がマイナス)」ゲームですが、株式市場は、世界経済が成長する限り**「参加者全員の期待値がプラス」**になるプラスサム・ゲームです。

合理的な判断をするならば、「期待値がマイナスの現金」から、「期待値がプラスの株式」へ資金を移動させる。これ以外の正解はありません。


4. なぜ「全世界分散」なのか?

「リスクを取ればリターンがあるなら、一番ハイリスクな株(個別株や暗号資産)を買えばいいのでは?」 そう思うかもしれません。

ここで現代ポートフォリオ理論のもう一つの教え、**「効率的フロンティア」が登場します。 難しい言葉ですが、要するに「無駄なリスクは取るな」**ということです。

特定の1社や1カ国に集中投資するのは、リターンに見合わない「無駄なリスク」です。倒産したり、戦争が起きたりすればゼロになるからです。 しかし、**「世界中の株全部(オール・カントリー)」に分散すれば、特定のリスクを相殺し合い、「最も効率よくリターンを得られる状態」**に近づきます。

  • 無駄なリスク: ギャンブル(個別株の一点張り)
  • 良いリスク: 市場全体への投資(オルカン)

私たちが取るべきは、後者だけです。


まとめ:現金を「働くお金」に変えよ

教育費2,400万円を作るミッションにおいて、「現金」は防御力が高いように見えて、実はインフレという敵に対して無防備です。

  • 現金: 時間が経つほど弱くなる。
  • 投資: 時間が経つほど強くなる(複利と期待値)。

0歳から18歳までの18年間は、この「期待値」を味方につけるには十分すぎる時間です。 恐れずに、現金を**「全世界株式(オルカン)」**という名の資産形成エンジンに移し替えましょう。

次回からは、いよいよ実践編です。 この理論を具現化するための**「新NISA・月15万円の最適配分」**について、具体的な設定方法を解説します。

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