「大学費用として、子供1人あたり500万円の準備が必要」巷のマネー誌やネット記事には、こういった数字が堂々と踊っています。
これを鵜呑みにして「500万円貯めればなんとかなる」と考えているとしたら、FPとして警鐘を鳴らさざるを得ません。なぜなら、その試算の多くは「国公立大学・自宅通学」という、“最もお金のかからない最短ルート” を前提にしているケースが多いからです。
今の子供たちが大学受験を迎える18年後、そのルートを通れる保証はどこにもありません。今回は、あえて厳しい現実をお伝えします。令和の私立理系志望世帯が目指すべき大学費用のゴールは、**「子供1人あたり1,200万円」**です。
なぜそこまで必要なのか? 一切の妥協がない算出ロジックを解説します。
1. 「国公立前提」は親のエゴである
まず、大前提となる考え方を修正する必要があります。
国公立大学は定員も少なく、非常に狭き門です。「うちはお金がないから国立に行ってね」という家庭の事情も分かります。しかし、子供がまだ小学生にもなっていない段階で、その「狭き門」しか選択肢がない資金計画を組むのは、子供の未来に対してあまりにリスキーです。
子供は成長するにつれて、自分の興味や適性が分かってきます。 「ロボットを作りたい」「宇宙工学をやりたい」と言った時、設備の整った私立理系大学が選択肢に入ることは往々にしてあります。
まだ将来の道筋が分からない段階では、とりあえず「コストがかかるルート」で予算を組んでおくことが資金計画の鉄則です。基準とすべきは、私立理系のトップ、**「早慶理系(早稲田・慶應)」**クラスの学費です。ここをカバーできれば、日本中のほぼ全ての大学に対応できます。
2. 【学費】インフレ考慮で「800万円」の壁
現在、早稲田大学や慶應義塾大学の理工学部では、授業料や施設費を含めると年間180万円前後の学費がかかります。
しかし、これを今の価格で計算してはいけません。物価上昇や人件費の高騰、研究設備の高度化により、学費は年々上昇トレンドにあります。10年、15年後の未来を見据えるなら、**最低でも「年間200万円」**と見積もっておくのが、リスク管理のできる親の姿勢です。
- 年間200万円 × 4年間 = 800万円
4年間の学費だけで、このくらいは覚悟しておきましょう。
3. 【生活費】自宅通いでも「200万円」は親が負担する
次に盲点となるのが、「自宅通学なら生活費はかからない(0円)」という誤解です。家賃がかからないのは事実ですが、実験や研究で忙しい理系学生の場合、生活コストは親が想像する以上にかかります。
小遣い3万円+実費のリアル
最近の首都圏の理系学生のトレンドとしては、昼食代や交際費として親が**「月額3万円前後の小遣い」**を渡すケースが多いです。 忙しすぎてアルバイトをする時間が限られるためです。 他には、通学定期代や書籍代(専門書は高額です)の実費など、費用は不定期に発生します。
これらを積み上げていけば、ならして月4万円程度、年間で50万円程度は見込んでおくのが良いでしょう。このくらいの予算を確保しておけば、周囲の友達と比べてもひもじい思いをしない、健全な学生生活が送れます。
- 年間50万円 × 4年間 = 200万円
学費の800万円と合わせると、学部卒業までに**「1,000万円」**。これが、息をするように消えていくお金の正体です。
4. 【大学院】不確実性へのバッファー「200万円」
最後に考慮すべきなのが、「大学院(修士課程)」への進学費用です。
現在の理系就職において、研究・開発職などを目指す場合、「院卒(修士)」はほぼスタンダードになりつつあります。「資金不足で院に行けない」という事態だけは避けなければなりません。
とはいえ、子供が小さい段階で進路は断定できません。2年分(約400万円)をフルスペックで用意するのは負担が重すぎます。そこでFPとして推奨するのが、**「1年分の学費+生活費=200万円」**を確保しておくという考え方です。
- 院に進学する場合: 最初の1年は親が出し、残りの1年はその時の家計の余剰資金や奨学金、バイトで対応する。
- 院に進学しない場合: その200万円は浮いたお金として、親の老後資金や、子供の結婚資金に回す。
この**「予備の200万円」**があるかどうかが、子供が将来の岐路に立った時、「好きな道を選びなさい」と言えるかどうかの分かれ道になります。
結論:1,200万円は「贅沢」ではなく「適正価格」
ここまでの内訳を合計してみましょう。
- 学費(私立理系): 800万円
- 生活支援(自宅): 200万円
- 大学院(予備): 200万円
- 【合計】: 1,200万円
これが、令和の親が目指すべき大学資金の「新常識」です。子供が2人いる家庭では、単純に2倍の**「2,400万円」**が必要ということになります。
「そんな大金、用意できるわけがない」 そう思われたかもしれません。確かに、銀行預金だけでこの金額を作るのは至難の業です。
しかし、私たちには**「時間」**という武器があります。 次回の記事(カテゴリー1完結編)では、これまで見てきた「各年代の収支(フロー)」と、今回算出した「大学費用の目標金額(ストック)」を統合し、どうやってこの2,400万円という山を登りきるのか、その全貌となるロードマップを公開します。
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